コアラ② 「コアラ対モモンガ」

コアラは他の動物が嫌いです。というか敵意がエスカレートして攻撃に転じることがありますので、周りの者は注意が必要です。

 9月の運動会も押し迫った穏やかな午後のことでした。
 この地区では、小学校と中学校が一緒に運動会をすることになっており、当然小中学校が一緒に練習をすることもありました。
 この春に転勤してきたばかりの僕は、初めてのことで様子がわからないので、コアラと先輩のさるじろう先生と校庭のベンチに座って一緒に練習風景をボケーッと見ていました。その向こうでは、小学校のモモンガ教頭が何やら言いたそうに、こちらをチラチラ見ながらトンボで校庭整備をしていました。常識のある僕は「手伝った方がいいかなあ。」とちょっと思いましたが、隣の先輩たちがまったく動こうとしないので、一緒になって雑談をしていました。
 校長はおらんし、うちの教頭は姿が見えんし、小学校の先生方は草むしりやら指導やらをされていましたが、うちの中学校の職員は僕たち同様に座って見ていましたし、出てこんで職員室でサボっているヤツもいて、あいかわらず小中学校間の激しい温度差をそれとなく感じていました。
 それにしても退屈でした。こうやってホケーっと座って眺めているだけで給料をもらえるなんて。僕はそことき、この学校に赴任させてくれた知らない人事のおっさんに心から感謝していました。
 2人の先輩方も退屈だったに違いありません。そのうち、さるじろう先生が障害走で遣う縄跳びを持ってきて、コアラと一緒に二重跳び競争みたいなことを始めました。僕も誘われて3人で一緒になって遊び始めました。そのとき・・・。
「こらーっ」
という怒鳴り声がしたかと思ったら、モモンガ教頭がやってきて、僕たち3人を大声でボロクソに怒りました。僕たちの態度がよほど逆鱗に触れたとみえて、それはそれはえらい剣幕で、練習していた生徒たちも何事かとこちらを見ていましたし、先生方も驚いた様子でした。つまり僕とさるじろう先生とコアラは、いい年こいてモモンガにしかられてさらし者になったのです。それからモモンガはわけのわからないモモンガ語で捨て台詞を残して興奮して飛んでいってしまいました。
 やがて、みんなは何事もなかったように元の練習に戻りました。僕とさるじろう先生とコアラは、しばらく事態が把握できずにいましたが、よく考えたらこちらの方が悪かったという大人対応で「ああ、びっくりした。」で終わりました。それから笑い話になりました。さっきのことについては、自分たちの非を認め、まじめに見学することにしました。

 この事件はとっくに終わってしまったのです。そして日曜日には小中学校で協力して運動会をやり、大成功で盛り上がり生徒も地区の方々も良い気持ちで運動会を終えることができました。夜は小中学校の先生方で楽しい打ち上げの会となりました。
 ところが1人だけ、この前のことを根に持って、未だにもやもやした気持ちでいる動物がいたのです。
 そういえばコアラは、打ち上げの席にモモンガがいないことをしきりに気にしていました。小学校の先生に
「教頭は(呼び捨て)なしておらんのですか。」
「実家に急用ができて帰りました。」
「ふーん、そうですか。」
といいながらお酒をガボガボと飲んでいました。

 打ち上げも終わり、午後10時もとっくに過ぎていたと思いますが、家まで3人で歩いて帰ることになりました。家といってもそれぞれで借りている教員住宅です。コアラはすっかりできあがって上機嫌です。僕もさるじろう先生もそれなりにお酒が入って、良い気持ちで歩いていました。澄んだ秋の空に、きれいな丸い月が浮かんで心地よい月光を放っていました。
 さて、やっと帰り着いたとき、一番手前にあるモモンガの教員住宅にモモンガのいすゞの変な車が止まっていることにコアラが気がつきました。電気は消えていましたので、すでに寝ていたのかも知れません。
 するとコアラは、
「おうっ、こんな(こいつ)は帰っとらあや。」
と言ったかと思ったら
「おい、出てこい。おうっ。ようもわしらあをくじをくりやがったのう。(よくも私たち をしかってくれましたね。)」
それから大声で何やら叫びながら、玄関の戸をドンドコドンドコたたき始めました。
 僕たちがまっ青になったのは言うまでもありません。
 僕とさるじろう先生は、必死になってコアラを押さえつけ、モモンガの家から引き離しまして、それからコアラの家まで連れて行ってコアラの家の鍵のかかっていない裏口からコアラを放り込んで戸をしめて、それから逃げるように各の家に帰りました。

 次の日、何事もなかったようにコアラはケロッとしていました。
 あーびっくりした。

 そいでもって「コアラ対モモンガ」の動物対決ですが・・・。コアラがモモンガの家の玄関の戸を大声でわめきながらドンドコドンドコ叩いたのに、モモンガはいたのかいなかったのか知りませんが結局何の反応もありませんでした。家の中にいたとしたら、何事が起こったのかとてもびっくりしたのは容易に想像がつきますが・・・。
 でも出てこなかったのので、この勝負、コアラの勝ちとしたいと思います。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック